
障害者手帳の取得:メリット・デメリットを解説|知っておきたい制度と実態

障害者手帳の取得を考えている方、あるいはその制度について詳しく知りたい方に向けて、この記事では取得のメリット・デメリットを徹底解説します。取得を検討するうえで知っておくべき制度概要、申請方法、手続きに必要な書類、そして日常生活への影響まで、多角的な視点からわかりやすく説明します。生活支援、税制優遇、就労支援といった具体的なメリットと、取得に伴うデメリットや注意点についても、具体例を交えながら詳しく見ていきましょう。
目次 [開く]
障害者手帳とは?
心身に障がいのある方が、社会生活を円滑に送るためのサポートを受けるために必要なのが、障害者手帳です。この手帳は、単なる証明書ではありません。さまざまな福祉サービスや支援制度への“橋渡し”となる大切なアイテムです。取得にはメリットもデメリットもあるので、慎重な検討が必要です。
障害者手帳の定義と種類
障害者手帳は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種の手帳を総称した呼称です。それぞれに等級があり、障がいの程度によって細かく分類されています。手帳の交付によって、利用できる制度やサービスも異なってきます。たとえば、身体障害者手帳では、身体機能の障がいの程度によって1級から6級まで等級が分けられています。等級によって、利用できる交通費の割引率や福祉サービスの内容が変わるため、申請前にしっかりと確認しておきましょう。
障害者手帳の種類と等級について
障害者手帳の種類と等級について、より詳細に説明していきます。
種類は身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類あり、それぞれに等級が設定されています。等級は障がいの程度を反映しており、利用できるサービスや制度に影響します。また、手帳の種類によってそれぞれの等級の基準が定められています。等級が同じでも手帳の種類が異なれば、認定基準が全く異なるということも理解しておきましょう。
身体障害者手帳
身体の機能に障がいのある方が対象となる手帳です。障がいごとに1級から6級までの等級が設定されています。等級は、障がいの程度や日常生活における制限の度合いによって決定されます。たとえば、視覚障害の場合、視力や視野の狭さによって等級が判断されます。肢体不自由の場合は、歩行能力や手の機能などが認定の対象となります。1級が最も障がいの程度が重く、より手厚い支援を受けられる可能性が高くなります。下記が対象となる障がいです。
- 視覚障がい
- 聴覚・平衡機能障がい
- 音声・言語・そしゃく機能障がい
- 肢体不自由
- 内部障がい(心臓機能障がい、じん臓機能障がい、呼吸器機能障がい、ぼうこうまたは直腸機能障がい、小腸機能障がい、免疫機能障がい、肝臓機能障がい)
療育手帳
知的機能の障がいがある方が対象です。日常生活における自立度や知能指数(IQ)などを総合的に判断し、重度(A)それ以外(B)の2つに分類されます。自治体によっては重度、それ以外をさらに細分化しているところもあります。重度(A)は日常生活の多くの場面で支援を必要とする方々を指します。療育手帳制度は、ほかの手帳と違い、各自治体が国のガイドラインに沿って運用しています。そのため、自治体によっては「愛の手帳」「愛護手帳」と名称が異なる場合もあります。具体的な手続き方法・認定基準については、お住まいの市区町村の担当窓口に問い合わせるか、市区町村のホームページなどで確認を必ず行いましょう。
精神障害者保健福祉手帳
なんらかの精神障がいにより、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方が対象です。重要な点として、対象の疾患に関して医療機関に初めてかかった日(初診日)から6ヶ月以上たった日以降に申請できます。対象となる精神疾患は下記のとおりです。
- 統合失調症
- うつ病、そううつ病などの気分障がい
- てんかん
- 薬物依存症
- 高次脳機能障がい
- 発達障がい(自閉症、学習障がい、注意欠陥多動性障がい等)
- そのほかの精神疾患(ストレス関連障がい等)
上記の症状の重さや社会生活への影響度合いを考慮し、1級から3級に分類されます。下記はそれぞれの級の大まかな基準です。

申請には、医師の診断書や、場合によっては症状や日常生活の様子を記述した報告書が必要となります。障害者手帳など、申請手続きは体力面とともに精神面も消耗します。安定した状態で申請をすることをおすすめします。また、不安な場合は一人で抱え込まず周辺の機関や家族などに相談しましょう。
等級と利用できるサービス
それぞれの障害者手帳の等級によって、利用できるサービスや制度は異なります。たとえば、公共交通機関の運賃割引率や、介護保険サービスの利用範囲、税制上の優遇措置などがあります。サービス内容は等級や利用する交通機関等によって大きく変わる場合があります。そのため、手帳を申請する前に、それぞれの等級における具体的な内容をしっかりと把握しておくことが重要です。市区町村の福祉課や関係機関に問い合わせることで、詳細な情報を取得することができます。必要なサポートやサービスを的確に利用するためにも、申請前にしっかりと情報を集め、準備を進めましょう。
障害者手帳の申請方法と必要な書類
前章では、障害者手帳の種類と等級について解説しました。本章では、障害者手帳の申請方法と必要な書類について、具体的な手順と注意点を含めて詳しく説明します。申請方法は一見複雑に感じますが、手順を理解し、必要な書類を準備すれば、不安を減らしながら申請を進めることができます。
申請の手順
障害者手帳の申請は、お住まいの市区町村の障害福祉担当課へ提出するのが一般的です。市区町村によって申請先の名称は異なりますので、申請先のホームページや申請に詳しい方に聞いて事前に調べておきましょう。具体的な手順は以下の通りです。
1.申請書類の入手・申請手順の確認: 申請に必要な書類は、お住まいの市区町村役場または福祉事務所で入手できます。ホームページからダウンロードできる場合もあります。申請者の状況によっては異なる手順も考えられますので、一度窓口に出向き、担当者に申請手順を確認することをおすすめします。難しい場合は電話などで担当課に問い合わせることもよいでしょう。
2.医師の診断書の作成: 診断書は、主治医または専門医に依頼します。診断書には、障がいの内容、程度、日常生活への影響などが詳細に記載されます。正確な情報に基づいた診断書を作成してもらうために、事前に主治医と十分に相談することが大切です。
3.必要書類の記入と準備: 申請書、診断書に加え、写真など、必要となる書類を全て準備します。申請書類には、正確な情報を記入し、誤字脱字がないように注意しましょう。また、写真についても、規定に沿ったものを準備する必要があります。
4.申請書類の提出: 準備が整ったら、申請書類を市区町村役場または福祉事務所へ提出します。窓口に直接提出するだけでなく、郵送で提出できる場合もあります。提出方法については、事前に確認しておきましょう。郵送の場合は、郵送期間を必要とするため時間がかかることも気をつけましょう。また、書留郵便など、配達状況が確認できる方法を利用することをおすすめします。
5.審査と決定: 提出された申請書類は、行政機関によって審査が行われます。審査期間は、数週間から数ヶ月かかる場合があります。審査の結果は、後日通知されます。審査の結果によっては、追加の書類の提出を求められる場合があります。
6.手帳の交付: 審査の結果、障害者手帳の交付が決定すると、手帳が交付されます。手帳を受け取ったら、記載内容に間違いがないかを確認しましょう。もし、間違いや不明点があれば、速やかに関係機関に連絡を取り、対応してもらいましょう。
必要な書類
申請に必要な書類は、申請する手帳の種類によって異なりますが、一般的に以下の書類が必要となります。
- 障害者手帳申請書
- 医師の診断書
- 写真(規定サイズ)
- 本人のマイナンバーがわかる書類
(本人の個人番号カード、番号通知カード、住民票の写し(番号記載)) - 印鑑
- その他、申請先が求める書類
以上の情報はあくまでも一般的な情報をまとめたものです。それぞれの市区町村によって、手続きや必要書類が異なる場合もありますので、注意が必要です。具体的な必要書類や申請方法については、お住まいの市区町村の福祉事務所またはホームページで確認しましょう。正確な情報収集を行い、不明点は所定機関に問い合わせるなど事前確認を行うことで、スムーズに申請手続きを進めることができます。
申請手続きは複雑に感じるかもしれませんが、一つずつ丁寧に進めれば完了できます。行政機関に相談したり、必要に応じて市区町村、病院、家族、ソーシャルワーカー、または専門家(行政書士・社労士)などの支援を受けることも可能です。手続きには時間がかかるため、余裕を持って進めることが大切です。制度の難しさに戸惑っても、周囲の助けを借りながら、諦めずに申請を目指しましょう。
障害者手帳取得によるメリット:制度と実態
障害者手帳を取得することで得られるメリットは、制度上の優遇措置と、生活における安定性の向上という2つの側面から考えることができます。制度面でのメリットは、法律で定められたさまざまな支援制度の利用資格を得られることです。一方、実生活でのメリットは、それらの制度を利用することで生活の質が向上すること、そして社会への参加がより簡単になることです。
障害者手帳を取得すると、制度上の支援や生活の安定といったメリットがあります。制度面の主な利点には、法律で定められたさまざまな支援制度の利用資格を得られることや、税の減免や介護保険料の軽減、公共交通機関の割引、福祉サービスの利用、就労支援などがあります。これにより経済的負担が軽減され、生活の質や社会参加のしやすさが向上します。
制度面でのメリット
障害者手帳を取得すると、さまざまな制度を利用できるようになります。これらの制度は、経済的な支援、生活の利便性向上、そして社会参加の促進を目的としています。
- 税制上の優遇措置:税制上ではおもに以下の6つの優遇が受けられ、経済的な負担を減らせます。
- 所得税の控除
- 住民税の控除
- 相続税の障害者控除
- 自動車税・軽自動車税の減免
- 預貯金の非課税対象化
- 医療費助成:医療費の自己負担額が軽減される制度があります。高額な医療費の負担を軽減し、安心して治療に専念できる環境を作ります。
- 障害者年金:一定の障害等級に該当する場合、障害者年金を受給できる場合があります。これは、経済的な安定を確保する上で大きな支えとなります。障害者手帳の等級とは別の判断基準となるので注意が必要です。
- 各種公共料金の割引:移動にかかる費用を削減し、外出の機会を増やすことで社会参加へのハードルを下げます。手帳の種類や等級、または事業者によって割引内容は異なります。おもな割引は以下のとおりです。
※割引内容の詳細は、各事業者へご確認をお願い- 公共交通機関の運賃
- 上下水道料金
- NHK放送受信料
- 携帯電話料金
- 公共施設の入館料
- 福祉サービスの利用:介護系、就労系などさまざまな福祉サービスを利用できるようになります。これらのサービスは、日常生活を支援し、社会参加を促進します。サービスの種類によっても対象者が変わったり、期限があったりと多種多様なので、詳しくは厚生労働省の「障害福祉サービスについて」をご覧ください。
生活へのメリット

上記の制度により実生活にさまざまなプラスの影響があります。これらは障がいを持つ方が安定した生活と心身を保つために重要な要素となります。
- 生活の質の向上:経済的な負担軽減や福祉サービスの利用により、生活の質が向上します。安心して生活できる環境が整うことで、精神的な負担も軽減されます。
- 社会参加の促進:公共交通機関の割引や福祉サービスの利用により、社会参加のハードルが下がります。仕事探しや趣味活動など、社会とのつながりを持つ機会が増えることで、充実した生活を送ることができ、社会からの孤立を防ぎます。
- 周囲の理解:障害者手帳は、周囲の人々に自身の状況を理解してもらうためのツールとなります。手帳を提示することで、必要な配慮や支援を受けやすくなります。社会的な理解と共感が得られることは、精神的な安定にもつながります。
- 雇用機会の拡大:従業員が一定数以上の企業では、障害者雇用促進法の観点から、障がい者、つまり障害者手帳保有者を採用する義務があります。雇用機会の拡大は、経済的自立への大きな一歩となります。
障害者手帳取得によるデメリットと注意点

障害者手帳の取得は、多くのメリットをもたらす一方で、いくつかのデメリットや注意すべき点も存在します。取得を検討する際には、メリットだけでなく、これらのデメリットや注意点についても十分に理解しておくことが重要です。冷静な判断に基づいた、最適な選択をするために、しっかりと確認しておきましょう。
手続き上のデメリット
障害者手帳などの行政への申請は、一般的に複雑で、多くの書類の提出や申請先等との連携が必要となります。さらに、障害者手帳においては医師の診断が必要となります。手続きに時間を要することも多く、精神的な負担も少なくありません。準備段階から申請、そして交付まで、多くの時間と労力を必要とすることを知っておきましょう。
- 複雑な手続き:必要な書類が多数あり、準備に時間がかかります。また、提出書類に不備があると、再度申請する必要もあります。
- 医師の診断が必要:医師の診断書を提出する必要があります。医師の都合や、受診・診断書発行にかかる費用なども考慮する必要があります。費用や診断書作成の手順は医療機関によって異なりますので、詳しくは医療機関にお問い合わせください。
- 時間と労力の負担:申請手続き全体に多くの時間と労力を費やす必要があります。精神的な負担も無視できません。
心理的なデメリット
障害者手帳は、自身の障がいを公的に認められるものです。このことは、本人にとって、さまざまな感情を引き起こす可能性があります。手帳を持つことに対する抵抗感や、周囲の目線への不安など、心理的な負担を感じるケースも少なくありません。自身の精神状態と、周囲の理解の度合いを、よく見極めることが大切です。
- 周囲の偏見や差別:手帳を持つことで、周囲から偏見や差別を受ける可能性があります。この点については、社会全体の理解度向上を期待する一方、自身の心の準備も大切です。しかし、手帳の提示は個人の判断によるため、知られたくない場合は提示を控えることもできます。
- 自己肯定感の低下:手帳を持つことで、自己肯定感が低下する可能性があります。自身の障がいと向き合い、障がいを前向きにとらえて生きていくためのサポート体制を整えることが重要です。
- プライバシーの侵害:手帳の情報が、意図せず第三者に知られる可能性があります。個人情報の保護について、十分な管理・注意が必要です。
その他注意点
障害者手帳を取得する際には、他にも注意すべき点があります。制度の変更や、利用可能なサービスの範囲など、つねに最新の情報を把握しておくことが重要です。また、手帳の利用方法や、周囲への説明方法についても、事前に知っておくことが必要でしょう。
- 制度の変更:制度の内容は変更される可能性があります。つねに最新の情報をチェックし、適切な対応を心がけましょう。
- 利用可能なサービスの範囲:手帳の種類や等級によって、利用可能なサービスは異なります。事前に確認し、必要なサービスを利用できるように準備しましょう。
- 手帳の提示:手帳を提示する場面では、必要に応じて説明を加えるなど、適切な対応を心がけましょう。
障害者手帳の取得は、個々の状況によってメリットとデメリットが大きく異なります。 申請を検討する際には、これらのデメリットや注意点に加え、自身の状況や将来への展望を十分に考慮し、慎重に判断することが不可欠です。難しい制度や、取得に関する不安も考えられるため、 専門機関への相談も有効な手段となるでしょう。 何よりも、ご自身の幸せを第一に考えて、最適な選択をしてください。
働くことへの影響
障害者手帳の取得は、社会生活においてさまざまな影響をあたえます。そのなかでも働くことへの影響は大きなものとなるでしょう。 必ずしもネガティブな影響ばかりではありませんが、現実的なメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。 多くの場合、個々の状況や職種によって影響は大きく異なります。
- 雇用促進:障害者雇用促進法に基づき、企業は一定割合の障がい者を雇用するよう義務付けられています。手帳の取得は、雇用において有利に働く可能性があります。
- 配慮・支援:職場環境の整備や、業務内容の配慮を受けやすくなります。 具体的な配慮内容は、手帳の種類や等級、職場の状況、本人の障がい内容によって異なります。合理的配慮の提供を企業に求めることができます。
- 雇用保険:雇用保険への加入条件や、失業給付の受給条件が緩和される可能性があります。具体的な影響は、個々の状況によって異なりますので、事前にハローワークなどで確認することが大切です。
障害者手帳の取得は、社会生活にさまざまな影響を及ぼします。 メリットとデメリットを理解し、自身の状況に合わせて適切な活用をすることで、より充実した生活を送ることが可能になります。 不明な点は、関係機関に積極的に相談し、必要な情報を集めることが重要です。 個々の事情に合った最適な選択をして、豊かな人生を送っていただきたいと願っています。
まとめ
障害者手帳の取得を検討する際は、メリットとデメリットを比較し、自分の生活や将来にとって最適な選択を考えることが大切です。また、医療機関や自治体の担当者に相談し、現状で受けられる支援を確認することも有効です。このコラムがみなさんの手助けになれば幸いです。